プラスチックを口にしている状況
「プラスチックを食べている」というタイトルは、ショッキングに感じるかも知れませんが、プラスチックを口にしまっていることは、紛れもない事実です。
ただあまり知られていません。その理由の1つに、「プラスチックによる人体への影響が分かっていない」 ことが背景にあると思います。
近年、生活環境や地球上のマイクロプラスチック粒子検出に関する報告事例は、大幅に増加しており、空気、水、土壌、食品、飲料などからも、マイクロプラスチック粒子が検出されています。
また、検出事例が多く出されている状況から、人体影響への関心が高まってきており、対策を講じる必要があるとの一般的見解が広まりつつあります。
ここでは、プラスチックを口にする経路や、どの程度の量を口にしているのかに触れていきます。マイクロプラスチックやナノプラスチックを口にしている事実を知ることができれば、それらを避ける道筋も立てられ、より賢明な選択肢を選ぶことができるようになると考えます。

海洋プラスチックごみが食卓へ
街にポイ捨てされたごみは、河川を経由して海に流れ出ます。そして、それらは海洋プラスチックごみとなり、いまも増え続けています。紫外線や風雨、波などにより小さく砕かれますが、生分解されません。多くのプラスチックごみは海底に沈んでいると考えられますが、海面や海水中に浮遊しているプラスチックを、クジラやイルカ、ウミガメなどの海洋動物が誤って食べてしまっています。
魚の体内からもプラスチック片が検出されています。そういった魚を人が食べることで、知らず知らずのうちにプラスチックを口にしている実態があります。

魚からのプラスチック片の検出事例
日本近海で取れた魚の調査をした下記論文によると、魚の体内からマイクロプラスチックが検出されたと書かれています。「最も多くマイクロプラスチックが検出されたのは東京湾のカタクチイワシで、個体数 34 匹中 27 匹(検出率 79.4%)から73 個のマイクロプラスチックが検出された。」と記されています。
S. melanostictus = マイワシ (Sardinops melanostictus)
E. japonica = カタクチイワシ (Engraulis japonica)
T. japonicus = マアジ (Trachurus japonicus)
S. zunasi = サッパ (Sardinella zunasi)
O.fasciatus = イシダイ (Oplegnathus fasciatus)
L. japonicus = スズキ (Lateolabrax japonicus)
H. nipponensis = ワカサギ (Hypomesus nipponensis)
出所:
水環境学会誌 Journal of Japan Society on Water Environment Vol.41, No.4, pp.107-113(2018)
「日本内湾および琵琶湖における摂食方法別にみた魚類消化管中のマイクロプラスチックの存在実態」より
見えないプラスチック片が食卓へ
プラスチックは、成形自由度が高く、見た目の鮮やかさや、お手入れのしやすさ、お手頃価格で購入できることなどから、多くの調理器具や食品保存容器などにも使用されています。しかし、それらの使用過程において、マイクロサイズやナノサイズの小さなプラスチック片が生成され、食材と一緒に口にしてしまっています。
1つは、プラスチック製まな板です。軽くて衛生的なイメージがあり、お手入れが簡単で、鮮やかなカラーリングはキッチンを明るくしてくれるので、プラスチック製のまな板は、家庭はもちろん、外食先のキッチンでも多く使用されています。加工食品の工場でも使用されています。食材を切るたびに、まな板表面は粗くなり、細かいプラスチック片が生み出されています。そして、それらは食材と混ざり合い、調理され、料理と共に知らないうちに食卓に上がっています。



◆まな板からプラスチック片が検出されている事例
マイクロプラスチックに関する様々な調査は日が浅く、まな板からの検出に関しては、2022年頃から論文が出始めたようです。
こちらの論文では、ポリプロピレンやポリエチレンといったプラスチック製のまな板から、大量のマイクロプラスチックが生成されていると書かれています。いずれの素材のまな板でも、年間で最大50グラム程度、数にして7000万個以上のマイクロプラスチックが出ているとのことです。
出所:
Environmental Science & Technology
Volume 57, Issue 22 Pages 8225-8235 June 6, 2023
Cutting Boards: An Overlooked Source of Microplastics in Human Food? (2023) より
またこちらの論文では、中東の市場で販売されている魚や肉から検出される、まな板を起因としたマイクロプラスチックの量や内容について分析しており、それらの食材にマイクロプラスチックが混入していることが示されています。
市場の魚や肉を扱うお店で使用されていた4種類のまな板のいずれからもマイクロプラスチックが発生していると書かれています。
出所:
Microplastic Contamination of Chicken Meat and Fish through Plastic Cutting Boards (2022) より
◆プラスチック製の容器から検出されている事例
つづいて、プラスチック製の容器からの検出事例についてです。冷蔵でも冷凍でも保存できて便利な保存容器。しかし、電子レンジ使用OKとなっているプラスチック保存容器においても、見えないプラスチック片が食材や料理に混入している可能性が高いようです。
ネブラスカ大学リンカーン校の新しい研究報告として、「食べ物や飲み物を温める最速の方法は、極小のプラスチック粒子を大量に摂取する最速のルートにも位置付けられる可能性がある」と書かれています。
こちらの実験では、米国の店舗の棚に並ぶプラスチック製のベビーフード容器を電子レンジで加熱すると、膨大な数のプラスチック粒子が放出される可能性があり、場合によっては、容器1平方センチメートルあたり20億個以上のナノプラスチックと、400万個以上のマイクロプラスチックが放出されることがあると書かれています。
さらに興味深い点は、マイクロやナノサイズのプラスチック摂取による健康影響はいまだ不明だとしつつも、培養された胚性腎臓細胞に対して、実際に起き得る数のマイクロやナノサイズのプラスチック片を与えた状態で観察を行った結果、これまで知られていた死滅割合より多い、約4分の3が2日後に死滅していることを発見したとも書かれている。

未処理のまま放置した胚性腎細胞(左)とマイクロプラスチックおよびナノプラスチックで処理した胚性腎細胞(右)を72時間並べて比較した結果
出所:
Nebraska Today
Nebraska study finds billions of nanoplastics released when microwaving containers
July 21, 2023 より
胚性腎臓細胞がこれまでの実験で用いられた細胞よりも影響を受けやすい可能性を示唆しているが、マイクロプラスチックやナノプラスチックの摂取による健康影響は不明としている。いずれにしても、プラスチック片の摂取機会を減らすことが賢明なようだ。
出所:
Environmental Science & Technology
Volume 57, Issue 26 Pages 9782-9792 July 4, 2023
Assessing the Release of Microplastics and Nanoplastics from Plastic Containers and Reusable Food Pouches: Implications for Human Health (2023) より
◆PETボトル飲料からプラスチック片の検出事例
PETボトル飲料はとても便利で、日本における清涼飲料用PETボトル出荷量は、増加の一途をたどっています。2004年 148億本 だったのが、2022年 241億本 と 1.63倍 になっていたことが、PETボトルリサイクル推進協議会の資料に記されていました。
便利なPETボトルですが、PETボトル入りの水や清涼飲料水の中から、マイクロやナノサイズのプラスチック片が検出されている調査報告書が、海外で多く取り上げられています。
とは言いつつ、まな板の検出報告と同様に、調査の歴史は浅く、2018年頃から論文で取り上げられるようになったようです。
出所: Synthetic Polymer Contamination in Bottled Water (2018) より
こちらの報告書では、表にある11ブランドのPETボトル入りミネラルウォーターについて、調査が行われました。いずれもそれぞれの国で売上げトップランキングのブランドのようです。ブランドごとで、ロット違いの評価も行ったようですが、いずれのブランドからもマイクロプラスチックが検出されています。

調査したミネラルウォーターのブランドと販売国
出所: Synthetic Polymer Contamination in Bottled Water (2018) より

ブランド&ロットごとの調査結果 (>100μm)
出所: Synthetic Polymer Contamination in Bottled Water (2018) より
検出されたマイクロプラスチック内、100μmよりも大きなマイクロプラスチックについて、素材や形状を調査した結果です。


PP; polypropylene ポリプロピレン
PS; polystyrene ポリエステル
PE; polyethylene ポリエチレン
PEST; polyester + polyethylene terephthalate
Others includes Azlon, polyacrylates and copolymers.
Fragment; 破片
Film; フィルム状
Fiber; 繊維状
Foam; 発砲状
Pellet; 粒子状
この結果は一例に過ぎません。しかし、他にも検出事例が報告されていることを鑑みると、目に見えないマイクロプラスチックが、PETボトル飲料に含まれている可能性が高いと考えられます。
また、PETボトル1本当たりに含まれるマイクロプラスチックの数については、論文や記事によってまちまちです。数字に一喜一憂することなく、含まれている可能性がある事実を知っていただき、考える切っ掛けになればと思います。
◆ティーパックからのプラスチック片の検出事例
アフタヌーンティーで優雅なひと時を楽しむ際、お湯を注ぐだけで好みの香りや味が楽しめるティーバッグは、便利です。しかし、そんなティーバッグから、マイクロプラスチックやナノプラスチックが大量に出ているという、衝撃の事実をご存知でしょうか。
こちらで紹介する論文には、プラスチック製ティーバッグ1個を95°Cのお湯に5分浸すと、約116億個のマイクロプラスチックと、31億個のナノプラスチックが1杯のカップ内に放出されると書かれてありました。
出所: Plastic Teabags Release Billions of Microparticles and Nanoparticles into Tea (2019) より
出所: Plastic Teabags Release Billions of Microparticles and Nanoparticles into Tea (2019) より
冒頭に記した通り、人体への健康影響については分かっていないので、現時点においては、精神衛生上なんとなく気持ち悪いという状況です。こちらの事例についても、プラスチック製品との関り方について、考える切っ掛けになればと思います。
◆口にしているプラスチックの量
毎週 5グラム のプラスチックを口にしているとしたら、どう感じますか?
こちらは2019年にWWFが公表した資料に書かれた数値です。5グラムとは、クレジットカード1枚分に相当する重さとのこと。また、資料を読むと、「これらの数値は現実的な範囲にあるが、正確な推定値を得るにはさらなる研究が必要であるというのが共通認識です。」と書かれている。5グラムの算出において、多くの論文で発表されている結果を用い、推定やデータ外挿補間により算出されたとも書かれていた。
出所: No Plastic in Nature: Assessing plastic ingestion from nature to people (2019) より
この 毎週5グラム という絶対値の正確性はさておき、一般的な食品や飲料の消費により、日常的にプラスチックを口にしてしることは、気持ちの良いものではありません。
口にしているプラスチックの発生源が、海ごみであれ、プラスチック製のまな板や容器、飲料水であっても、そもそもの原因となっているプラスチックの使用量を下げていくために、どうすれば良いかを考えていく必要があると感じます。
関連情報リンク
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