はじめに
世界中の研究者によって、体内からマイクロサイズやナノサイズのプラスチック片が検出されており、その実態が少しずつ明らかになってきています。
いずれ報告されるだろうとは思っておりましたが、脳からもプラスチック片が検出されたとの報告書を見つけたので、サマリー部分の共有をさせていただきます。
今回の見どころは、単にプラスチック片が見つけただけではなく、認知症とマイクロプラスチックとの相関を示唆する結果だったことです。断言はしていませんが、影響があることに踏み込んだことは、とても興味深いと感じました。
これまでの報告書と同様、この実態から想像力を働かせ、今できることを始める必要があると感じます。

論文の概要
アメリカ ニューメキシコ州にあるニューメキシコ大学の マシュー・カンペン博士 (Ph.D. Matthew Campen) らによる報告書 「Bioaccumulation of microplastics in decedent human brains (故人の脳におけるマイクロプラスチックの生体蓄積)」によると、肝臓や腎臓よりも脳から多くのマイクロプラスチックが検出されたと記されていました。また、認知症患者の脳からは、更に多くのマイクロプラスチックが検出されたと記されていました。
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出展: nature medicine 2025/2/3
調査結果
ニューメキシコ州アルバカーキにある医療捜査官事務所(OMI) の協力により、殺人や自殺、薬物使用、自然死した検体 (2016年 = 28、2024年 = 24) の標本と、ニューメキシコ大学(UNM) の認知症症例リポジトリにある標本 (2019~2024 = 12) を基に分析が行われたとのことです(※下表1 詳細情報)。
下記4つのグラフ a ~ d で示された結果のポイントを共有させて頂きます。
a
こちらは肝臓(Liver)、腎臓(Kidney)、脳(Brain)から採取したすべての検体 (※下表1参照) における総MNP(※)濃度の結果が示されています。
(※) MNP: Micro and Nano Plastics
マイクロサイズやナノサイズのプラスチック片のこと
2024年標本で総プラスチックの中央値は、肝臓 432.9 ㎍/g、腎臓 404.8 ㎍/g。これまでに発表されたヒトの胎盤 (中央値 63.4 ㎍/g) や、精巣(中央値 299 ㎍/g) よりも高い結果だったと記されています。また、脳においては 4,917 ㎍/g と大幅に多いMNP濃度を示したとのことです。

※グラフ内の数値は p値
一般的に p<0.05 の場合には、”有意差有り” と判断されるそうです。
ちなみに NS は、 not significant = 有意差無し という意味です。
b & c
グラフb は、どのような種類のプラスチック片が、どの程度の割合で存在していたかをまとめたグラフでした。グラフc は、特にPE ポリエチレン の量について比較したグラフです。
3つの部位 (肝臓、腎臓、脳) における最も高い割合を占めたプラスチック片は、PE ポリエチレン でした。特に脳においてはその割合が肝臓や腎臓よりも高く、平均75% が ポリエチレン だったことが分かります (グラフb) 。検出されたポリエチレンの量は、脳が肝臓や腎臓よりも多かったことが分かります (グラフc) 。
また、PP ポリプロピレン や、PVC ポリ塩化ビニル、SBR スチレンブタジエンゴム は、2016年から2024年にかけて特に増加したと記されていました。


N66 66ナイロン
ABS アクリロニトルルブタジエンスチレン
PET ポリエチレンテレフタレート
N6 ナイロン6
PMMA ポリメタクリル酸メチル
PC ポリカーボネート
PU ポリウレタン
PS ポリスチレン
d
上記a~c で使用した検体に加えて、ノースカロライナ州 デューク・キャスリーン・プライス・ブライアン・ブレイン・バンクで収集された1997~2013年の標本 (NC = 13、MD = 5、MA = 9) も用いてグラフd が作成されました。
NC ノースカロライナ州 デュークキャスリーンプライスブライアン脳バンク
MD メリーランド大学 国立小児保健発達研究所 脳組織バンク
MA マサチューセッツ州バーバード脳組織リソースセンター
NM ニューメキシコ州 ニューメキシコ大学
グラフd で確認できることは、認知症の脳の検体におけるマイクロプラスチック量が、認知症でない脳の検体 (中央値 4,917 ㎍/g) に比べて、桁外れに多い量のマイクロプラスチック 26,076㎍/g @中央値 が検出されたことです。
また、NC、MD、MAなどの東海岸のサンプルは、NM の検体と比べて全体的にMNP濃度が低かったとのことです (中央値 1,254 ㎍/g) 。

表1. プラスチック分析のために取得された脳サンプルに関する利用可能な人口統計データの概要

さいごに
現代の生活においてプラスチックを排除することは不可能と言える状況にあります。仮に最大限プラスチック製ではない食器や調理器具、プラスチック包装されていない食品を選択をすることが出来たとしても、製造工程における食品へのプラスチックの混入や、食品自体 (植物の土壌からのプラスチック取り込み、家畜飼料からのプラスチックの取り込み) に含まれるプラスチックを排除することは難しいです。
ここで考えたいことと行動したいことは、やっても無駄だからと何もせずにすべてを受け入れる選択肢を選ばずに、可能な範囲でプラスチックとの距離を取ろうとすることや、脱プラスチックの選択肢を選ぶことだと考えます。
健康への影響度合いが分からない現時点において、予防的な行動自体に意味を見いだせない人が多いことも事実ですが、自分の人生だけに焦点を当てるのではなく、将来世代の人生をも背負っている認識を持ち、可能な範囲でプラスチックを削減する選択をする人が増えることを願いたいと思います。
また、医学的、科学的な要因特定がされていない状況では過度な妄想なのかも知れませんが、マイクロサイズやナノサイズのプラスチック片が、血栓や腫瘍の原因となる可能性を払拭できないという現状もあります。プラスチック片による健康被害が顕在化し、急激なプラスチック排他社会やプラスチックパニックとならないようにするためにも、今できることを考えて行動し始めたいです。
個人的な懸念と関心は、認知症への影響です。寿命が延びている一方、認知症患者が増加傾向であることも報告されています。また、認知症の弱年齢層化に関する論文も出始めました。マイクロプラスチックによる認知症への影響を疑っているので、認知症になりにくくするためにもプラスチックとの関わり方を考えて、行動していきたいと思います。

