まさかぁ! と思う方も多いと思います。信じたくないかも知れませんが、世界中の研究者がその実態を少しずつ明らかにし始めています。それらの一部を紹介させていただき、プラスチックとの付き合い方を考える一助になればと思います。
事例は、きれいな街からきれいな海に調査に基づき、発表順に並べて紹介させていただきます。項目上の日付は発表された日です。
※下記項目をクリックするとその事例にジャンプします
2018 / 10 / 23
From 糞便
最初は、UEG ; United European Gastroenterology (※) が発表した「Microplastics discovered in human stools across the globe in ‘first study of its kind’」です。このプレスリリースのタイトルから、この種類 (=マイクロプラスチック) に関する最初の研究であり、世界中の人間の便からマイクロプラスチックが発見されたと書かれています。
※画像をクリックするとプレスリリースの原文が開きます。
資料によると、8人の被験者 (フィンランド、イタリア、日本、オランダ、ポーランド、ロシア、英国、オーストリア) 全ての糞便から、マイクロプラスチックが検出され、9種類のプラスチックが特定されたと書かれています。
サイズは、50〜500マイクロメートルで、ポリプロピレン (PP) と、ポリエチレンテレフタレート (PET) が最も一般的だったそうです。便10g 当たり 平均20個のマイクロプラスチック粒子が発見されました。
また、研究リーダーのフィリップ・シュワブル博士 (Dr. Philipp Schwabl) は、「プラスチックが最終的に人間の腸に到達するという、私たちが長い間疑っていたことを裏付けるものです。」と、第26回 UEGウィーク で本研究結果を発表しました。また、人間の健康にどのような影響があるかについては、「さらなる研究が必要」と述べています。
※1992年に設立されたヨーロッパ内外の消化器系の卓越した健康を目的に、ウィーンに本部を置く非営利団体。
8人の被験者だけで世界中という表現は、少し大胆にも感じましたが、食物連鎖の中にプラスチックが取り込まれていることは、紛れもない事実の様です。フィリップ博士の言う、さらなる研究結果を待ちたいと思います。
2021 / 1 / 1
From 胎盤
続いては、妊婦の胎盤からマイクロプラスチックが検出されたという報告書です。「First evidence of microplastics in human placenta」というタイトルが付けられており、日本語訳は、”人の胎盤からマイクロプラスチックが検出された初めての証拠” となっています。
※画像をクリックすると論文の原文が開きます。
この研究では、同意を得た女性から採取された6つの胎盤を分析した結果、4つの胎盤から、球状または不規則な形状のマイクロプラスチック断片が12個 見つかったと記されています。 その内訳は、胎児側 5個、母体側 4個、絨毛羊膜 3個 で、形態や化学組成上の特徴が判明したと記されていました。また、すべて着色されており、3つは熱可塑性ポリマーである染色ポリプロピレンと同定され、他の9つは顔料で、人工コーティング、塗料、接着剤、石膏、フィンガーペイント、ポリマー、化粧品、パーソナルケア製品で使用されていることが分かったと記されています。
報告書内にあった下表では、見つかった12個のマイクロプラスチック片について、分かったことがまとめられています。項目は左から順に、番号、見つかった場所、大きさ、色、複合材名称、詳細-属名、詳細-分子式とIUPAC名、HQI (ヒット クオリティ インデックス) となっています。プラスチック片が見つかった場所として、FS=胎児側、CAM=絨毛羊膜、MS=母体側 と記載されています。
タイトルにある通り、ヒトの胎盤からマイクロプラスチックが検出された最初の報告書ですが、血流にどの経路で到達したかは、解明されていません。呼吸器系や胃腸系などの可能性が考えられています。
産まれる前から、マイクロプラスチックと隣り合わせの状況があるとは、人体への影響有無とは別に、気持ちの良くない状況であると感じました。
2022 / 3 / 24
From 血液 (オランダ)
続いては、人の血液中からマイクロプラスチックが発見されたという報告書です。
アムステルダム自由大学 (VU University Amsterdam) の ヘザーA.レスリー博士が、人の血液中からマイクロプラスチックを初めて検出したという報告を、Environment International誌で2022年3月24日に行いました。
※画像をクリックすると論文の原文が開きます。
調査は、健康な成人22人の血液を採取し、行われました。その結果、17人の血液から定量可能なプラスチック粒子が検出されたというものです。17 / 22 = 77% ということになります。人間の血液から、マイクロプラスチックを定量的に検出できたのは、これが初めてとのことです。PMMA = アクリル樹脂、PP = ポリプロピレン、PS = ポリスチレン、PE = ポリエチレン、PET = ポリエチレンテレフタラート (通称ペット) が同定されました。
血管内の血液は、皮膚損傷時を除き、皮膚から取り込まれることは無いと考えられています。そのため、血管内の血液で検出されるプラスチック粒子の取り込み経路は、粘膜接触 (摂取または吸入) によるものである可能性が高いと考えられています。
現時点、血液内から発見されたということは分かりましたが、どのようにして血液内に運ばれ、その後どのように移動するのかについては、分かっていません。
他の体内からの発見事例も考慮すると、プラスチック製品の一部が体内に取り込まれていることは、事実のようです。
2022 / 6 / 30
From 母乳
続いては、母乳からマイクロプラスチックが検出されたというイタリアの報告事例を共有させていただきます。
※画像をクリックすると論文の原文が開きます。
タイトルは、「ラマン顕微分光法による母乳中のマイクロプラスチックの検出と特性評価」です。34人の女性から採取した母乳をラマン顕微分光法で分析した結果、26人の母乳から、計58個 のマイクロプラスチックが発見されたと記されています。検出された微粒子は、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレンで構成されており、サイズは 2〜12μm の範囲でした。
形状、色、寸法、および化学組成に分類された表はこちらです。フィルム状や繊維状のマイクロプラスチックは見つからなかったとされています。
また、検出されたマイクロプラスチックの顕微鏡写真とラマンスペクトル波形はこちらです。
PE; ポリエチレン、PVC; ポリ塩化ビニル、PP; ポリプロピレン、PVOH; ポリビニルアルコール、PEVA; ポリエチレンビニルアセテート、PEMA; メタクリル樹脂、PES; ポリエステル、PC; ポリカーボネート
報告書の末尾には、脆弱な乳幼児に関りの深い胎盤や母乳からマイクロプラスチックが検出されている状況は、大きな懸念だと書かれています。マイクロプラスチックの内在化と蓄積によって引き起こされる潜在的な健康障害に関する知識を深めることで、妊娠中や授乳中の汚染物質への暴露を減らすことができるため、科学的研究を強化することが必須だと締めくくられていました。
実態が少しずつ解明されつつあるマイクロプラスチック。避けては通れない社会課題なので、正しい情報を基に多くの人と考え、行動していくことが必要だと感じました。
ー ー ー ー ー ー ー ー
ちなみに、”ラマン顕微分光法” について調べました。大雑把に言うと、レーザー光を物質に当て、跳ね返ってくる光の分析から、その物質を特定する分析方法で、マイクロプラスチック分析において、一般的な分析方法の様です。前述の胎盤や血液中からのマイクロプラスチック検出事例においても用いられた分析方法です。また、それ以外にも、赤外分光法や、ガスクロマトグラフィ質量分析法など、マイクロプラスチックの分析では用いられるようです。
参考に、ラマン顕微分光法を分かりやすく解説したサイト (左) と、マイクロプラスチック分析で用いられる分析方法に関する報告書 (右) を共有させていただきます。
ラマン分光法の基礎
マイクロプラスチック粒子分析ツールとしての顕微ラマン分光法
RM; Raman microspectroscopy (ラマン分光法)、FPA-FT-IR; Focal plane array Fourier-transform infrared spectroscopy (焦点面フーリエ変換赤外分光法)、Pyr-GC-MS; Pyrolysis gas chromatography mass spectrometer (熱分解ガスクロマトグラフィ質量分析法)、TED-GC-MS; Thermo extraction desorption gas chromatography mass spectrometry (熱抽出ガスクロマトグラフィ質量分析法)
ー ー ー ー ー ー ー ー
2022 / 7 / 20
From 肺
次の事例は、2022年7月に報告された 「Detection of microplastics in human lung tissue using μ-FT-IR spectroscopy」です。直訳すると、”μ-FT-IR分光法を用いたヒト肺組織中のマイクロプラスチックの検出” です。
※画像をクリックすると論文の原文が開きます。
この報告書の目的は、空気中に漂うマイクロプラスチックが吸入により体内に取り込まれていることの確認と、健康影響を判定する上で必要となる現実的な評価条件を知るために分析が行われました。
背景には、空気中のマイクロプラスチックは世界中のあらゆる所からサンプリングされていることや、人が多い場所、特に屋内でその濃度が増加することが知られていることがあります。また、呼吸器の症状や疾患が職業によって異なることも報告されていますが、環境中からマイクロプラスチックが人間の肺内に吸入され、沈着し、蓄積されるかどうかはまだ分かっていないことがあげられます。
本研究では、μ-FT-IR分光法を用いて、ヒトの肺組織サンプル n=13 を分析することで、マイクロプラスチックの検出および特徴づけがなされました。n=11 のサンプルから、合計39個 のマイクロプラスチックが検出され、12種類の素材が特定されました。PP ポリプロピレン 23%、PET ポリエチレンテレフタラート 18%、樹脂 15%、PE ポリエチレン 10% の順に多く検出されました。また形状は、繊維状 49%、小片状 43%、フィルム 8% でした。
並行して、それらが存在した肺領域 (上・中・下) の分布も調べました。上に示した図からその状況が分かります。
これらの結果から、環境中の汚染物質の暴露経路として吸入による影響が裏付けられました。今後、健康への影響判定をする際の現実的な条件となり、更なる解明が期待できます。
ー ー ー ー ー ー ー ー
ちなみに、”μ-FT-IR分光法” について調べました。母乳や、胎盤、血液中のマイクロプラスチック分析で用いられた ”ラマン顕微分光法” と同様に、光を用いる点は同じですが、ラマンではレーザー光を用いるのに対して、FT-IR分光法では、赤外線を用います。それぞれの分析方法による長所・短所がまとめられた比較表がありました。参考にしてください。
※画像をクリックすると比較表が掲載されているサイトが開きます。
ー ー ー ー ー ー ー ー
2023 / 6 / 25
From 精巣 & 精液
続いては、ヒトの精巣と精液から、マイクロプラスチックが検出された報告書です。
本研究では、熱分解ガスクロマトグラフィー/質量分析 (Py-GC / MS) と、レーザー直接赤外分光法 (LD-IR) の両方を使用し、6つの精巣と30の精液サンプルを確認しました。その結果、精巣と精液の両方からマイクロプラスチックが検出されました。精液中の平均存在量は0.23±0.45粒子/mL、精巣中の平均存在量は11.60±15.52粒子/g と記されています。
精巣のマイクロプラスチックはポリスチレン (PS) が67.7%を占め、精液中はポリエチレン (PE) とポリ塩化ビニル (PVC) が多く見つかりました。
この研究により、人間の男性の生殖器系内にマイクロプラスチックがあることを初めて明らかにされ、今後の健康リスク評価で重要な基礎データとなることが期待されます。
※画像をクリックすると論文の原文が開きます。
2023 / 7 / 13
From 心臓
続いては、心臓からマイクロプラスチック片が見つかったという報告書ですが、これまでの様に単に検出した内容を報告しているのではなく、手術による直接的なマイクロプラスチックの取り込み経路が見落とされていることを示唆するものでした。
タイトルは、「Detection of Various Microplastics in Patients Undergoing Cardiac Surgery」。直訳すると、”心臓手術中の患者からの様々なマイクロプラスチック片を検出” です。
前提や視点がこれまでとは違っている点に注意が必要です。
※画像をクリックすると論文の原文が開きます。
この研究チームは、マイクロプラスチックが臓器内に取り込まれる経路に疑問を持っていました。無料公開されている上記の論文 Abstract (要旨) からでは背景が分かり辛かったので、プレスリリースも参考にしました。
多くの科学者が、食べ物や水、空気、そして人体の一部などからマイクロプラスチックを既に発見しています。人の生活環境下において、マイクロプラスチックと接する機会があることは確かですが、ヒトの臓器や組織は体内に閉じ込められていることから、この研究チームは、マイクロプラスチックが 間接的もしくは直接的に心臓血管系に侵入したかどうかを調査したいと考えました。
そこで、心臓手術中の15名から心臓組織のサンプル (※) を採取し、その半数の7名の患者から術前&術後の血液を採取し、レーザー直接赤外線イメージングで分析しました。結果、20~500個のマイクロプラスチックが確認され、ポリエチレンテレフタラート、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチルなど、8種類の素材が確認されたと書かれています。
(※) マイクロプラスチック検体として、心膜6個、心外膜脂肪組織6個、心膜脂肪組織11個、心筋3個、左心耳5個
(注意) 検体の数であって、マイクロプラスチック片の数ではありません
ほとんどの組織サンプルから、数万から数千個のマイクロプラスチック片が検出されましたが、その量や材質は患者によって異なっていました。また、すべての血液サンプルかには、プラスチック粒子が含まれていましたが、手術後は粒子のサイズが減少し、粒子の種類は多様になりました。
今回の分析から、マイクロプラスチックが心臓とその周辺部の組織に蓄積し、残留する可能性があるという予備的な証拠は提供できたと述べています。
同時に、今回の研究結果から、医療処置がマイクロプラスチックの侵入経路として見落とされており、直接的に血流や内部組織にアクセスできていることを示唆したが、更なる研究が必要だとも述べています。
2024 / 3 / 20
From 血液 (日本の事例)
続いては、3つ目で事例紹介した内容と同じ血液からのマイクロプラスチック検出事例ですが、日本で初めて検出されたという報告です。現時点 (2024/4/5) 、インターネットのニュース記事でしか探せませんでした。東京農工大の高田教授のチームは、マイクロプラスチック自体の検出報告もさることながら、プラスチック添加剤による人体影響を研究されているようです。一般市民の1人として、新たな研究成果の発表から、引き続き学ばせて頂こうと思います。
※画像をクリックするとニュースページへジャンプします。
2024 / 4 / 7
さいごに
人間の体内からマイクロプラスチックの検出事例が報告され始めたのが 2018年。実に、マイクロプラスチックという言葉が公に定められた 2008年 から 10年後 のことでした。多くの研究者による研究のお陰で、様々な新たな事実を知ることができます。今後、より詳細な状況が明らかになってくると思われます。
我々一般市民は、そういった最先端の研究結果を知って行動することも必要ですが、既に動植物や人間の健康への影響が懸念されているので、適切に恐れながら、想像力を働かせて、出来る範囲で行動していくことも必要だと感じます。そうすることで、きっと、もっと明るい未来が来ると思います。
どうぞ、みなさまのお力とお知恵をお貸しください。
関連情報リンク
もっと知りたい | 海洋プラごみ関連情報プラットフォーム 私たちはプラスチックを食べている 体内からのプラスチック検出事例 ~追加01 (2024/6/30 追加予定) |